博物館ブログ

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附属自然学習園での「大人の遠足」

 県立博物館には、附属施設として自然学習園があり、自然学習の場を提供しています。山辺町畑谷の「県民の森」にある琵琶沼を中心に開設しています。

 この一帯は、クリ、ミズナラ、アカマツなどの林に覆われ、琵琶沼にはホロムイソウ、ヒメカイウといった氷河期からの生き残りと言われる植物があり、動物では両生類のクロサンショウウオ、モリアオガエルや、昆虫類のなかではアオイトトンボ、ハッチョウトンボなど20種類以上を産するなど、貴重な生態となっています。このように自然のままの姿が残され、貴重な動植物が分布している湿原であることから、昭和53年(1978年)に県の天然記念物に指定されました。

 また琵琶沼を含む周辺は、白鷹山の山麓の海抜約600メートルに位置し、畑谷大沼をはじめ荒沼、曲沼など数十か所の湖沼群があります。山形県立博物館『平成6年度 琵琶沼緊急調査報告書 -地学・動物-』(1995年)によれば、もともと白鷹山の主峰は、現在よりも北に中心があり、今より標高が高い火山であったと考えられています。しかし山体崩壊が発生し、さらに地すべりなども起きながら、現在の地形が形成されていったようです。西黒森山、白鷹山、高森山からなる稜線は、カルデラの地形を示しており、琵琶沼からは西~南側になります。

 このような環境のもと、自然学習園は、動植物や地形など自然系における豊かな学習を提供する施設です。今年度も、6月25日に「大人の遠足 夏山歩 琵琶沼自然観察会」を企画しました。申し込み締め切りは、6月11日(土)です(ただし定員になり次第終了します)。詳しくは、該当のページをご参照ください。

特別展が始まりました!

 6月4日(土)から特別展「発掘30周年、マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ~やま
がた北部の古生物~」が開展しました。
 マムロガワクジラの全化石を中心に、第三展示室内はクジラやイルカ、鰭脚類や貝類な
どの化石で埋め尽くされており、非常に見ごたえのある展示となっております!

展示会場の中央

  マムロガワクジラの化石はもちろん、その他にも貴重な展示物がたくさんあります。
 今回はその中からいくつか紹介したいと思います。

 まずはキタトックリクジラの骨格標本(国立科学博物館より借用)

キタトックリクジラ(国立科学博物館蔵)

  不思議な形ですよね。国内にはほとんど標本が存在しないとの事です。他のクジラ化
 石と見比べてもらうと明らかに形が違うことが分かります!

  次にミズホクジラ化石(岩手県立博物館より借用)

ミズホクジラ化石(岩手県立博物館蔵)

  非常にきれいにクリーニングされた化石で、古代のクジラの骨格がはっきりと分かる
 資料です。こちらも必見!

  最後にこちら

  いかがでしょう。この資料は何か分かりますでしょうか。

  正解は…

  イッカクの角(牙)でした!こちらも国立科学博物館からお借りいたしました。
 当初はレプリカを展示予定でしたが、科博さんのご厚意で本物を展示しております!
 
  他にもまだまだ紹介したい資料がたくさんあるのですが、あまり紹介しすぎると見に
来ていただく楽しみが無くなってしまうのでこの辺で…

 今年度の特別展は8月28日(日)まで開展しております。化石に興味のある方は
ぜひとも博物館へ足をお運びください♪

特別展を観ればクジラ博士に!

 特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」が始まりました。最初の来館者は、茨城県にお住いの方でした。遠路からお越しいただいて、大変ありがたいものです。順調にスタートが切れました。

 本県北部に位置する真室川町において、1992年より1994年にかけて新生代約600万年前の大型のクジラ化石(マムロガワクジラ)が当館によって発掘されました。今年は最初の発掘から30年となる節目もあり、全化石を公開して、その全容と調査・研究の成果を紹介します。
 展示資料は、約230点に上ります。入口を過ぎると、島展示されたマムロガワクジラの化石群がお迎えします。島の中心に設置された巨大な頭部や顎は、重厚感あふれ見応え十分です。
 また、マムロガワクジラ以外のクジラも多種紹介しています。解説も工夫していますので、クジラの「ミニ博士」になれる絶好の機会です。ご来館をお待ちしています。
(公式ツイッターも、引き続きチェックしてください。)

右の下顎骨の化石です

特別展の準備が進んでいます

 いよいよ今週末から、特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」が始まります。
準備は佳境に入っています。クジラは大きな生き物ですので、その化石の重さとなると、「石」ゆえに、相当半端ないです。職員総出(もちろん館長や副館長も)で、互いに声を掛け合いながら、収蔵庫から展示室まで運び込みます。頭など部位によっては、数人がかりで何とか動かせるほど重い化石です。時に汗をぬぐいながら、今も鋭意準備を進めているところです。
(※博物館職員には、体力勝負の業務がたくさんあります。博物館勤務を志望している方は、ご承知おきください。)
当館が発掘したマムロガワクジラの化石をはじめ、カイギュウやシャチなど大型の哺乳類を中心に、海棲生物の化石を一挙公開します。重量感、重厚感ともにあふれる化石群にご期待ください。

公式ツイッターにおいては、連日見どころを紹介しています。まだまだ紹介は続きますので、引き続きツイッターもご覧ください。

正面入り口に看板が設置されました

芝桜の香り

 4~5月、ピンクや紫の絨毯のように鮮やかに芝桜が咲き広がっている光景をあちこちで見ることができます。山形市と天童市の間を流れる立谷川河畔の芝桜は、名所になりました。
 県立博物館においても、ピークを過ぎた感はありますが、正面を中心に、まだ芝桜が映えています。芝桜を背景にして、お連れを撮影する方もいて、この季節限定の来館記念の撮影スポットになっているようです。

 ところで、芝桜の香り(匂い)を感じたことはありますか? 芝桜は、地面を這うように生える植物のため、大抵は足下くらいの高さで咲いていることが多いです。よって、しゃがみこんだりしないと、花の香りは感じにくいと思います。マスクをしている今は、なおさら気付きにくいでしょう。
 県立博物館は、駐車場から出るとアプローチ部分の最初に階段が9段あり、それを登ったスペースに花壇があります。そのため駐車場からは、ちょうど大人の顔くらいの位置に芝桜が生える高さになります。そばに近づくと、マスク越しでも花の香りが感じられ、豊かな気持ちになります。この季節でしか味わえない館長お薦めスポットの一つです。今週末でも十分楽しめると思います。

 今週末といえば、セレクション展の最終日になります。多くの来館をお待ちしています。

まもなく常設「近代山形くらしのうつりかわり」の展示が休みに入ります

 現在、第3展示室においては、東半分のスペースを使って「第4回やまはくセレクション展」(5月15日まで)を開催しており、西半分では「近代山形くらしのうつりかわり」をテーマにした常設展示を行っています。

 常設展示「近代山形くらしのうつりかわり」は、山形県の誕生から現代にいたるまで、近代化していく山形の姿や、そのなかで伝統を受け継ぎ発展させていこうとする人びとのくらしを展示しています。「街角の風俗」「山形の郷土玩具」「雪と山形」「山形のやきもの」を柱に構成しています。くらしに密着したテーマで、懐かしい生活用具もたくさん展示しています。

 実は第3展示室については、6月4日から始まる特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ」の会場となりますので、セレクション展の終了後、セレクション展とともに西半分の常設展示も撤収作業に入っていきます。常設展示の再開は、12月中旬の予定です。約半年は見ることができませんので、ご承知おきください。

 セレクション展の開期とともに、休止までの常設の展示期間もわずかとなりました。新緑が映える景色とともに、博物館の展示をお楽しみください。

春の大型連休

 山形県立博物館が立地する霞城公園は、桜吹雪の舞が終わり、芝桜やタンポポなどの花が広がっています。これからは若葉の香りが漂う季節に入っていきます。
 いよいよ春の大型連休がスタートします。過去2年と違って、山形県では、現在、県独自の感染防止対策は出されていません。ただし、来館される皆様には、引き続き、不織布マスクの着用や、消毒、一定の距離を保ちながらの見学など、基本的な感染防止対策の徹底について、ご協力をお願いします。

 現在開催している「第4回やまはくセレクション展」の開催日数は、残り少なくなってきました。5月15日(日)までとなっています。
 これまでの来館者アンケートを見ると、好評をいただいているようです。興味深かった展示資料を選ぶ項目では、7部門(地学、動物、植物、考古、歴史、民俗、教育)から、まんべんなく挙げていただいています。皆様の多様な興味関心に、当館として応えられているのではないかと実感しています。また、アンケート上には「万国一覧図では、当時の人々がどう世界を見ていたか、どれくらい日本を知っているのか見ることができて面白かった」「琥珀の中に虫がいるのに、意外なサイズ(小ささ)に驚きました」とのコメントもあり、「実物」から感じ取った率直な感想もいただいているところです。

 明日からの大型連休などを利用して、当館の展示会と若葉が芽吹く霞城公園をお楽しみください。ご来館をお待ちしています。

やまはくセレクション展~残り1ヵ月です!

 絶賛開展中の「やまはくセレクション展」。残りの会期もあと1ヵ月となりました。多くの皆様にご観覧いただき、大変好評をいただいております。琥珀化石や大判世界地図、山形ハッカの展示など、普段は見ることができないたくさんの資料を展示しております。
 現在、山形新聞のYouTubeチャンネル「PressYamashin」にて、紹介されています。ぜひご覧いただき、博物館に実物を見に来てください。

 また、春の霞城公園は桜をはじめ多くの木々が咲き乱れ、見ごろとなっております。霞城公園散策の折には、ぜひ博物館にも足をお運びください!

教育資料館(分館)の構造躯体

 3月16日の深夜に、宮城県沖を震源とする地震が発生し、山形県内においても広く各地で震度5レベルの揺れが観測されました。東日本大震災以降、私自身としては最も揺れを感じた大きな地震でした。
 地震の発生後、直ちに本館、分館の状況確認を行いました。分館である教育資料館は、ルネサンス様式を基調とした木造二階建てであり、明治34年(1901年)の建築です。国の重要文化財に指定されています。何かしらの「損傷」「被害」の可能性が頭をよぎりましたが、建物も展示資料にも被害は全くありませんでした。
 実は、分館の建物は、揺れによるねじれを考えた造りになっています。例えば、内部の天井や床は、斜めの板張りにしていますが、筋交いの効果を持ち、構造躯体の強化にも役立っているといわれています。なお、天井と床の両方とも斜めにした建物は、ほかに例を見ないようです。ここだけで見ることができる貴重な資料です。
 見た目にも美しい板張りです。ぜひお越しいただいて、直にご覧ください。分館も見どころが満載です。

※ 斜めにすることで、コストは約倍になるそうです。

須川の埋没林

 現在、当館の正面玄関前に、「埋没林」を展示しています。埋没林とは、何らかの原因によって、森林が地中や水中に埋没したもので、化石となった状態で発見される例が多いです。このたび展示している埋没林は、昨年7月2日及び9月6日、山形市桜田西5丁目付近の須川河岸から2本発掘したものです。なお、須川の埋没林は、すぐ上流の谷柏地区や黒沢地区、上山市宮脇地区でも発見されており、かつて山形大学が谷柏地区の埋没林の年代を調査したところ、約2万7千年前であることが判明しました。展示している埋没林も同世代と考えられます。

〈発掘前の埋没林〉

 これらの埋没林は、エゾマツのような針葉樹林と思われます。エゾマツは主に冷涼な亜寒帯に分布していますが、2万7千年前は、最後の氷河期(第四紀の最終氷期=約7~1万年前)の最寒冷期に当たっており、年平均気温は現在より6~8度も低く、当時の山形盆地は現在の標高千メートルに相当するような寒い気候でした。山形盆地には、湿地や沼地がまだ広くあり、亜寒帯針葉樹が茂る森林になっていたと考えることができます。このころの山形県でも、旧石器時代の遺跡が発掘され、人間の営みが確認されています。また、ナウマンゾウなど、今は絶滅してしまった大型の獣も県内に生息していた時期です。
 では、どのようにして埋没林ができたのでしょうか。このことについては、当館職員の長澤一雄学芸員が「山形市須川河床に現れた後期更新世の埋没林の発掘」(『山形県立博物館研究報告』40号/2022年)にまとめています。そこから紹介しますと、まず埋没林として残った部分は、川岸の地層などから見ると、シルトや泥炭層の中に保存された部分であったようです。当時は、まだ湿地や沼地が多く、粘土層の堆積があって、それが乾燥して土壌が形成され、樹木が生育していたと思われます。しかし、何かしらの原因で環境が変化して冠水したため、樹木は死んでしまいましたが、泥炭層で覆われた部分は保存され、泥炭層ではなかった部分は乾燥や風化などで失われ、その上に河川の礫が堆積したと考えられます。やがて、河川等の侵食によって、覆っていた砂礫や泥炭層などが取り去られ、須川の河床に埋没林が、化石樹木の状態で出現したと思われます。
 須川の埋没林は、旧石器人の活動の早い時期における、山形盆地の気候、環境や、大地の成り立ちを知る手掛かりになる貴重な資料と考えられます。例えば、発掘してみたところ、いずれの埋没林も根は浅く、側方へ太い根を発達させていました。このことから、当時の地下水位が高かったことが推定できました。
 気候変動や自然災害などによって、亜寒帯から現在のような自然環境へと変わっていきました。埋没林は、これまでの自然環境の変動を物語っています。また、厳しい自然環境に耐えながら、2万年以上も存在し続けた埋没林に、自然の力強さを感じ取ることができるのではないでしょうか。

〈正面玄関前に展示している埋没林〉