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博物館への誘い(いざない)

 この4月に県立高校から県立博物館に赴任しました。高校生という多感な生徒たちを相手にする仕事から、何万年前の化石や自然・歴史に関する幅広い資料を扱う仕事に突然チェンジし、戸惑うことも多々あります。中でも一番感じることは、時間の感覚の違いです。学校では毎日6校時の授業があり、その後は部活動、その合間に各種会議と、日々、後ろから追われるような感覚がありました。もちろん博物館でも、企画展・特別展の準備や運営、そして終わることのない日々の資料整備とその忙しさに変わりはないのですが、扱うものの時間的なスケールが圧倒的に違います。
 今年度、当館1階の体験広場が一部改修され、化石木展示室が新設されました。化石木とは太古の昔、洪水などで森林が埋められた際にその一部が化石化したものですが、当館のものは令和3年に山形市南部の須川から掘り出され、約2万7千年前のものと推定されます。この時代は旧石器時代にあたり、気温は今よりも7度ぐらい低く、針葉樹の中をナンマンゾウが闊歩し、人間がそれらを狩って生活しているような時代でした。

 当館の代表的な展示物である土偶「縄文の女神」(国宝)は約4,500年前(縄文時代中期)のものですが、人工的に作られた土偶に対して、自然が作った化石木はもう私の時間の物差しを凌駕しており、何回見てもリアリティを感じることができません。当館の化石木は非常に保存状態が良く、木の質感もそのままのため、尚更困惑してしまいます。

 私たちは、日々、自分の人生というスケールの中で生きています。しかし、博物館という空間はまさにその私たちの感覚を狂わせ、私たちを不思議な世界に誘います。化石木の年月はいかに私たちが刹那の時を生きているかを教えてくれますし、「縄文の女神」の造形は人間の精神文化の普遍性といったものを私たちに教えてくれます。
 木々が芽吹き始め、新たな生命が息づき始めたこの季節、ぜひ、博物館に足を運んでいただき、郷土山形の視点から、悠久の時の流れや自然の雄大さ、そしてそこで営まれてきた人々の文化の素晴らしさを体感なさってみてはいかがでしょうか。
 館員一同、皆様のお越しを心よりお待ちしております。

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